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2018年11月コラム<前月 | 次月>

「きしもと君」

きしもと君息を飲むような美しさである。振り向きもせず、つれないそぶりで去っていく彼女のように。あっという間に夕焼けが闇に融けていく。もう少しそばにいて欲しいものだと願うのだが、それは未練たらしい。バスターミナルから見る夕焼け。仕事を終えた人たちが家路を急いでいるかと思うと、そうでもないことに気付く。家路を急いでいない人もいる。ラフな格好で暖簾をくぐるひともいる。誰かと待ち合わせなのだろう時計を何回も見直している人もいる。

たまにはこういう夕方の雑踏の中で、ウオッチィングをするのも面白い。昔の自分を見るようなビジネスマンもいれば、ちょっとくたびれてきた今の自分と同じような人も多い。

不意に肩をたたかれる「きしもと君じゃない?」振返ってみれば、そこには。ずいぶん昔にお世話になった先輩がいる。懐かしい限りである。20数年前にタイムスリップしたような感じである。先輩は、すでに古希を迎えているはずであるが若い。相変わらずアイビールックである。

「きしもと君は、行政書士会の会長やっているんだろう?」「ええ、でも昨年で退任しました。何でご存知なのですか?」「時折、新聞に載っているのを見たからね」時間に余裕のあった私は、「先輩、久し振りに一杯やりますか!」と誘ってみると、左手の小指を差し出しながらニヤリと笑い「ごめん、待ち合わせしているものだから、また連絡するよ!」昔と全然変わらない元気さである。

“きしもと君”と呼ばれたのは何年振りだろう。20代で起業した私は、お客様をはじめ周りはすべて年長者であった。必然的に“きしもと君”と呼ばれ、可愛がってもらったものである。以来、幾星霜が流れたのか。“きしもと君”と云う人はいなくなり、いつの間にか理事長だの会長だの、はたまた先生だのと呼ばれていた。自分では、気が付かないままに敷居が高くなっていたようである。

そんな折、足掛け40年のお付き合いになるお客様からご連絡をいただいた。この秋に亡くなった創業社長の奥様である。相続の相談である。そう云えば創業社長のお父様が亡くなられた時にも、相続のお手伝いをさせていただいた。親子二代の相続手続きである。悲しい出来事ではあるが、行政書士冥利に尽きる話である。

早速、奥様に久し振りにお目に掛かる「きしもと君、お手数掛けるけど、今度も頼みますね。あら“きしもと君”では失礼だったわね。」いやいや有り難いことである。立て続けに“きしもと君”と呼ばれ、うれしさとともに、そう呼ばれない敷居の高さは、だめであると痛感した。ビジネスの基本中の基本である。権威や箔をつけるのもひとつの方法かもしれないが、我々は“人に、企業に、寄りそう”存在でなければならない。

先月の誕生月には、市役所から「介護保険被保険者証」が届き、ショックだった私であるが、まだ“きしもと君”と呼んで下さる方がいる。創業の頃に立ち返り、敷居を下げて、更なる“きしもと君”で行ってみよう!

平成30年11月1日
静岡県行政書士会
名誉会長 岸本敏和

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